水色,黄色,オレンジ,ピンク,紫色,薄茶色…
やわらかい色たちがキャンパスを彩っている。
輪郭はすっきりしていて,彩色にこだわっている印象。
何度も上塗りした,筆の跡が見える。
フランスで下宿していたころの家政婦の老婆を描いた絵があった。
頬がこけて,無表情で,暗い雰囲気。決して美しいとは言えない。
もともとは浮浪者だったこの老婆を,
家政婦として雇おうと決め,連れて帰ったらしい。
最初から絵にしてみたいという気持ちがあったのかもしれない。
坂本さんは,必ずしも美しいものをモチーフとして選んでいない。
晩年に取り組んだ静物画には,
石,レンガ,はさみ,植木鉢など身近なものが描かれている。
中でもごく普通の「箱」を描いた作品が,私は好きだった。
ほとんどは油彩なのだけど,
数点展示されていた版画が,また良かった。
歌舞伎役者を描いたシリーズ,海や山を描いたシリーズなど
油彩の雰囲気とはまったく違っていて,
その幅広さに驚かされた。素敵。