舞台・映画を観ていて,ストーリーを追うことに必死になってしまい,作品そのものを楽しめないことが時々ある。私はどうも人より理解が遅いらしい。。(笑うのもワンテンポ遅れる…。)なるべく観る前に下調べ的なことをしたほうがいいかも…,と思っていたので,今回,野村萬斎の『敦』を観るにあたって,中島敦の原作(短編)をさらっと読んでみた(当日になって,なのだけど…)。
今回観た「山月記」「名人伝」は話自体はそんなに難しくないけど,漢語のような難しい言葉がちらほら出てくるので,事前に読んでおいてよかったとおもった。それが功を奏したのかどうかは分からないけど,演劇を観て本当に心うごかされたのはこの「敦」が初めてだった。 「山月記」の,虎になってしまった男が旧友に再開する場面で,「私の心の中に住んでいた猛獣が,私を虎の姿に変えたのだ」と静かに語るシーンがある。こんな風に自分の運命を静かに受け入れたかと思うと,次の瞬間には自嘲的な言葉を発する。揺れ動く心や,人間の多面性が,恐ろしいほどリアルに伝わってきた。 (虎になったという)特殊な状況にありながら,この男の苦しみは人間が持つ普遍的な苦悩へとつながっていて,それで私は自分の状況と置きかえて考えてみると,苦しくなってきたのだ。演劇を観て初めて涙してしまった。(そのあとは,ちょっとしたセリフにいちいちウルウルしてしまったのです) 「人生は,何事かを為すには短すぎ,何事をも為さないでいるには長すぎる」この敦の言葉が,上演中に何度か萬斎さんの口から発せられる。非常に印象的な言葉だった。 萬斎さんの敦への敬愛,それがこの舞台を更に奥行きのあるものにしていたとおもう。 ★構成・演出 野村萬斎 9/18まで世田谷パブリックシアターにて
by platform_life
| 2006-09-14 13:21
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